都心のオフィスビルで事務職として働く私にとって、夏は一年の中で最も過酷な季節でした。多くの人が「涼しくて快適でしょう」と言うその職場が、実は私の身体をじわじわと蝕む冷たい檻のようだったからです。私の席は、あいにく天井の空調吹き出し口のほぼ真下にありました。朝九時に出社した瞬間から、冷たい風が頭上から容赦なく降り注ぎます。設定温度は二十五度ですが、風が直接当たる私の席の周辺は、体感温度では二十度を切っていたかもしれません。午前中のうちはまだ耐えられましたが、午後になると指先が紫色になり、キーボードを叩く指が思うように動かなくなります。膝掛けを二枚重ねにし、厚手の靴下を履いていても、足元から忍び寄る冷気は骨の髄まで冷やしていくようでした。最も辛かったのは、身体の芯が冷え切っているにもかかわらず、外回りから戻ってきた同僚たちが「暑い、もっと下げてくれ」と設定温度を下げる瞬間です。職場の室温設定は、個人の体感差を考慮することが難しく、私はいつも「寒い」と言い出せないまま、ひたすら耐えるしかありませんでした。そんな生活を続けて一ヶ月が経った頃、私の身体に明らかな異変が現れ始めました。まず、どんなに寝ても朝から身体が鉛のように重く、頭を締め付けられるような鈍い痛みが常態化しました。食欲も落ち、温かいものしか受け付けなくなりました。鏡を見ると、肌はカサカサに乾燥し、目の下には深いクマができていました。ある日、立ち上がろうとした瞬間に激しいめまいに襲われ、私はついに病院へ行くことにしました。医師の下した診断は、典型的なクーラー病でした。「あなたの自律神経は、外の暑さと中の寒さの板挟みになって、もう限界を迎えていますよ」という言葉に、私は自分の身体の悲鳴をようやく理解しました。それ以来、私は職場での防衛策を徹底することにしました。機能性インナーを重ね着し、マイボトルには常に温かい生姜紅茶を入れ、休憩時間には意識的に屋外に出て太陽の光を浴び、身体の温度センサーをリセットするようにしました。また、上司に相談して空調の風向きを変える板を取り付けてもらうなど、環境改善にも勇気を持って取り組みました。クーラー病を経験して痛感したのは、一度崩れた自律神経のバランスを取り戻すには、それまでの何倍もの時間がかかるということです。今でも夏になるとあの時の冷えの恐怖が蘇りますが、自分の身体のサインを敏感に察知し、先回りして対策をとることで、なんとか健康を維持できています。冷房の効いた快適なオフィスという仮面の下に潜む健康リスクに対し、私たちはもっと自覚的であるべきなのだと、身をもって学びました。