それはある朝、トイレでの出来事でした。排便時に今まで感じたことのない強い痛みがあり、ティッシュに鮮血が付着していたのです。恐る恐るお尻に触れてみると、明らかにポコッとした小さな突起物がありました。頭の中が真っ白になり、「これが、あの有名な“いぼ痔”か」と直感しました。30代半ば、健康だけが取り柄だと思っていた私にとって、それは大きなショックでした。最初の数日間は、「そのうち治るだろう」と現実から目を背け、市販の薬でなんとかしようと試みました。しかし、症状は一向に改善せず、むしろ痛みは増していくばかり。椅子に座るのも苦痛になり、仕事への集中力も散漫になっていきました。何より辛かったのは、誰にも相談できない孤独感と、病院へ行くことへの羞恥心でした。「お尻を他人に見せるなんて…」その一点が、私の足を重くさせていたのです。しかし、痛みと不安には勝てません。インターネットで「いぼ痔 何科 女性医師」と必死に検索し、隣の市にある肛門科専門クリニックを見つけました。ウェブサイトには、プライバシーに配慮した診察室の写真と、優しそうな女性院長のプロフィールが掲載されており、私は震える手で予約の電話をかけました。診察当日、待合室では他の患者さんと顔を合わせないよう配慮されており、少し安心したのを覚えています。診察室に入ると、院長先生は私の不安を察してか、非常に丁寧に、そして穏やかに話を聞いてくれました。診察は、横向きに寝て膝を抱える体勢で行われました。想像していたよりもずっと恥ずかしさは少なく、診察自体もほんの数分で終わりました。診断は「内外痔核」、いわゆるいぼ痔でした。幸い、まだ初期段階だったため、手術は必要なく、生活習慣の改善と薬物療法で治療を進めることになりました。便を柔らかくする飲み薬と、炎症を抑える座薬を処方され、食生活や排便習慣について丁寧な指導を受けました。あれほど悩んでいたのが嘘のように、薬を使い始めると痛みは数日で引き、一週間もするとポコッとした塊も小さくなっていきました。もっと早く来ればよかった。診察を終えた時、心からそう思いました。もし同じように悩んでいる人がいるなら、伝えたいです。その一歩の勇気が、必ずあなたの苦痛を和らげてくれます。