かかとの痛みが、足の裏側ではなく、かかとの「後ろ側」、ちょうどアキレス腱が付着しているあたりに生じる場合、それは「アキレス腱」そのものや、その周辺組織のトラブルが原因である可能性が高いです。アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)とかかとの骨(踵骨)をつなぐ、体の中で最も太くて強靭な腱です。歩いたり、走ったり、ジャンプしたりする際に、地面を蹴り出すための重要な役割を担っています。このアキレス腱周辺の痛みで、まず考えられるのが「アキレス腱付着部炎」です。これは、アキレス腱がかかとの骨に付着する部分で、使いすぎ(オーバーユース)による繰り返しのストレスによって、微細な損傷と炎症が生じる状態です。ランニングなどのスポーツ選手によく見られますが、普段あまり運動しない人でも、硬い靴を履いて長時間歩いたりすることで発症することがあります。症状は、運動の開始時に痛みが強く、体が温まると少し楽になるものの、運動後に再び痛みが強くなるのが特徴です。かかとの後ろ側を押すと、限局した強い痛みがあります。次に、「アキレス腱周囲炎」は、アキレス腱そのものではなく、腱を包んでいる「パラテノン」という薄い膜に炎症が起こる状態です。アキレス腱の周辺が腫れぼったくなり、動かすとギシギシとした感じ(轢音)がすることもあります。また、かかとの骨の後ろ側とアキレス腱の間には、「滑液包」という、潤滑油の入った袋があり、これがクッションの役割を果たしています。靴のかかと部分の硬い縁(ヒールカウンター)が、この滑液包を圧迫し続けることで炎症が起こるのが「アキレス腱滑液包炎」です。特に、女性が新しいパンプスなどを履いた時に起こりやすいです。治療は、いずれの疾患も、まずは原因となっている運動や動作を休止し、安静を保つことが基本です。痛みが強い時期には、アイシングや消炎鎮痛薬の内服・外用が有効です。そして、痛みが和らいだら、ふくらはぎの筋肉のストレッチングを丁寧に行い、アキレス腱への負担を減らすことが再発予防の鍵となります。