かかとの痛みの原因が、腱膜やアキレス腱といった軟部組織だけでなく、かかとの骨(踵骨)そのものにある場合もあります。特に、スポーツを熱心に行っている人や、長時間の立ち仕事をしている人は、注意が必要です。その代表的な疾患が「踵骨疲労骨折」です。疲労骨折は、一度の大きな外力で骨が折れる通常の骨折とは異なり、骨の同じ場所に、繰り返し小さなストレスがかかり続けることで、骨に微細なひびが入ってしまう状態です。マラソンや長距離走、ジャンプを多用する競技の選手などが、トレーニング量を急に増やした時などに発症しやすいです。症状は、運動中や運動後のかかとの鈍い痛みとして現れ、初めは軽い痛みですが、運動を続けるうちに徐々に痛みが強くなり、やがて日常生活の歩行でも痛みを感じるようになります。かかと全体が腫れぼったくなり、かかとを横から挟むように圧迫すると、強い痛みが生じるのが特徴です(squeeze test)。診断は、レントゲンでは初期には変化が現れないことが多く、MRI検査が非常に有用です。治療は、原因となっている運動を完全に中止し、骨が癒合するまでの数週間から数ヶ月間、免荷(体重をかけないこと)あるいは荷重を制限することが絶対的に必要です。次に、中高年のかかとの痛みで、レントゲンを撮るとよく見つかるのが、「踵骨骨棘(しょうこつこつきょく)」です。これは、足底腱膜がかかとの骨に付着する部分で、腱膜に引っ張られる刺激が長期間続くことによって、骨がトゲのように異常増殖したものです。足底腱膜炎の患者さんによく見られますが、この骨棘そのものが、直接痛みの原因となっているわけではない、と考えられています。骨棘があっても全く痛みがない人もいれば、骨棘がないのに強い足底腱膜炎の症状がある人もいます。したがって、骨棘が見つかったとしても、治療の対象は、骨棘そのものではなく、その背景にある足底腱膜炎ということになります。