現在、RSウイルス感染症に対して、一般的な予防接種(ワクチン)は実用化されていません。(ただし、早産児や特定の基礎疾患を持つ乳幼児を対象とした、重症化予防のためのモノクローナル抗体製剤(パリビズマブ)の注射はあります。)したがって、5歳の子どもと、その家族が感染から身を守るためには、日々の地道な感染予防策を徹底することが、唯一かつ最も重要な方法となります。RSウイルスの主な感染経路は、咳やくしゃみなどのしぶきに含まれるウイルスを吸い込む「飛沫感染」と、ウイルスが付着した手で目や鼻、口に触れることによる「接触感染」です。これらの感染経路を断つことが、予防の基本です。まず、最も効果的なのが「石鹸と流水による手洗い」です。子ども自身はもちろんのこと、周りの大人も、外出先から帰宅した時、食事の前、トイレの後など、こまめに手洗いを行う習慣をつけましょう。指の間や爪先、手首まで、30秒以上かけて丁寧に洗うことがポイントです。次に、「アルコールによる手指消毒」も有効です。RSウイルスは、アルコール(エタノール)で不活化されるため、手洗いがすぐにできない状況では、アルコールベースの手指消毒剤を活用しましょう。また、流行シーズン(主に秋から冬)には、「人混みを避ける」ことも重要です。特に、下の子にまだ0歳や1歳の乳児がいる場合は、お兄ちゃんやお姉ちゃんが、保育園や幼稚園、あるいはショッピングモールなど、人が多く集まる場所でウイルスをもらってきて、家庭内に持ち込んでしまうケースが非常に多いです。可能な範囲で、不要不急の外出は控えるのが賢明です。家庭内では、「おもちゃの消毒」も心がけましょう。子どもたちが日常的に触れるおもちゃや、ドアノブ、テーブルなどは、ウイルスが付着しやすい場所です。市販のアルコール除菌スプレーや、塩素系の消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)を薄めたもので、こまめに拭き掃除をすると、接触感染のリスクを減らすことができます。「咳エチケット」も大切です。咳やくしゃみが出る場合は、マスクを着用するか、ティッシュや腕の内側で口と鼻を覆うように、子どもに教えましょう。これらの基本的な感染対策を家族全員で実践することが、RSウイルスの流行から子どもたちを守るための、最も確実な防波堤となるのです。