肩の痛みと共に、その周辺の皮膚にピリピリ、チクチクとした痛みや、赤い発疹、水ぶくれといった症状が現れた場合、その原因は関節や筋肉ではなく、皮膚と神経の病気である可能性が非常に高いです。この場合に、まず受診すべき診療科は「皮膚科」です。その代表的な疾患が、「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」です。帯状疱疹は、多くの人が子供の頃にかかる水ぼうそう(水痘)のウイルスが原因で起こります。水ぼうそうが治った後も、そのウイルスは体内の神経節に静かに潜伏し続けています。そして、加齢や疲労、ストレスなどで免疫力が低下した時に、潜んでいたウイルスが再び活性化し、神経を伝って皮膚に到達して、帯状疱疹として発症するのです。帯状疱疹は、体の片側の、一本の神経が支配する領域(皮膚分節)に沿って症状が出るのが大きな特徴です。肩の周辺は、首から腕へ向かう神経(頸神経や腕神経叢)が支配しているため、この領域に潜伏していたウイルスが活性化すると、肩から腕、あるいは胸にかけて、症状が現れます。最も特徴的なのは、その症状の経過です。まず、皮膚に発疹が現れる数日前から1週間ほど前に、その領域にピリピリ、チクチクとした神経痛のような痛みが先行します。この段階では、皮膚には何も異常がないため、筋肉痛や神経痛などと間違われやすいのです。そして、痛みが出始めてからしばらくすると、その場所に帯状に赤い発疹と、小さな水ぶくれが多数出現します。この水ぶくれは、強い痛みを伴い、やがて破れてかさぶたになり、治癒していきます。帯状疱疹の治療で最も重要なのは、早期診断と、抗ウイルス薬による早期治療の開始です。発疹が出てから72時間以内に抗ウイルス薬の内服を始めると、ウイルスの増殖を抑え、皮膚症状や痛みを軽くし、治癒までの期間を短縮することができます。治療の開始が遅れると、発疹が治った後も、数ヶ月から数年にわたって頑固な神経痛が残る「帯状疱疹後神経痛(PHN)」という、非常につらい後遺症に悩まされるリスクが高まります。したがって、体の片側に原因不明の痛みと、それに続く発疹が現れたら、自己判断せず、できるだけ早く皮膚科を受診することが極めて重要です。