切り傷を負った際に、多くの人がまず思い浮かべる診療科の一つが「皮膚科」かもしれません。皮膚科は、その名の通り、皮膚に現れるあらゆる病気やトラブルを専門とする診療科であり、切り傷の初期対応においても重要な役割を果たします。では、どのような切り傷であれば、皮膚科の受診が適しているのでしょうか。皮膚科が最も得意とするのは、比較的「浅い」切り傷の治療です。傷が皮膚の表面(表皮)や、そのすぐ下の真皮層にとどまっており、脂肪層や筋肉まで達していないような場合です。例えば、カミソリで浅く切ってしまった、紙で指を切った(ペーパーカット)、あるいは猫に浅くひっかかれた、といったケースがこれにあたります。皮膚科では、まず傷の状態を詳しく観察し、傷の深さや大きさ、汚染の程度を評価します。傷口を洗浄・消毒し、必要であれば、傷の治りを促進する軟膏や、傷を湿潤環境に保つための創傷被覆材(ドレッシング材)を処方します。また、切り傷で特に注意が必要なのが、「感染」のリスクです。傷口から細菌が侵入し、化膿してしまうと、傷の治りが遅れるだけでなく、周囲に炎症が広がって「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という重篤な状態になることもあります。皮膚科医は、傷口が赤く腫れて熱を持っている、ズキズキと痛む、膿が出ているといった、感染の兆候を的確に判断します。感染が疑われる場合は、抗生物質の内服薬や外用薬を処方し、感染をコントロールします。特に、動物に噛まれたり、土や錆びた金属で怪我をしたりした場合は、破傷風のリスクも考慮し、必要に応じて破傷風トキソイドの予防接種を勧めることもあります。このように、皮膚科は、浅い切り傷の適切な処置と、感染症の管理という二つの側面から、傷の治癒をサポートしてくれます。ただし、傷が深く、縫合が必要な場合や、傷跡を美容的にきれいに治したいという希望が強い場合は、後述する形成外科や外科の方が、より専門的な対応が可能です。